医師の働く環境

人々の命を救い、病気やけがの苦しみから解放してくれる医師は、
患者さんやそのご家族にとっては、とても重要な存在となります。
難しい手術を次々に成功させ神の手と呼ばれる医師がいたり、最近ではネットや
書籍で、この病気ならこの医者だと名医が検索できるほど情報もあふれています。

しかし、どんなに優れた医師でも、すべての病気を100%治せるわけではありません。
時には救えない命があり、目の前で息を引き取る患者さんと
対峙し自分の無力さと無念さに打ちのめされる時もあります。

医師には法律上、応召義務があり、
いつどんな時でも求められれば診療を拒むことができません。
また、病院の多くで医師に病院から30分以内の所に住むことを義務付けたり、
呼び出しがあれば直ぐに駆けつけられたりすることが求められます。
笑い話ではなく実際にあった話ですが、婚活のため合コンに参加しても、
お酒の一口たりとて口にせず、ずっと携帯を気にするといった状況です。

まさに医師は、自分の生活を多少犠牲にしてでも
患者の命を救うために尽力する聖職者であるのです。
そのため、報酬が高いのも当然で、常に患者さんの命やリスクと向き合い、
緊張と集中力を強いられる医師にとっては、決して高いとはいえないのかもしれません。

医師不足の問題

この点、最近の社会では医師の世界に偏りが生じています。
都心の大学病院は直ぐに求人が埋まるほど人気があっても、地方では医師不足が
深刻であったり、高い報酬が見込める美容整形外科などの成り手は多くても、
リスクや負担が大きい産婦人科や小児科では医師が不足していたりするというものです。

地域的な偏在は、特に研修医のマッチング制度を導入してから拡大しているようです。
医師免許取得後の最初の研修場所を選べるようになり、
医師の卵たちは自分の理想に近い研修を実施している病院に希望を出します。
これにより大学は地方の医大を卒業したのに、その大学病院で研修を行わず、
都心の病院に移ってしまうという事態が発生しています。

研修医は病院スタッフの一翼を担い、研修後はその病院で勤務することが
期待されるだけに、研修医の減少は病院にとって大きな痛手です。

また、本来であれば、産科医療や小児医療、地域医療含めてすべてを
経験するべきですが、自分が目指している診療科以外の研修は行わなくてよい
プログラムを組んでいる病院に希望を出す傾向も見られるようです。

一方、美容整形外科や美容皮膚科が人気なのは、日勤で当直がなく、
基本的に疾患を有する患者の治療ではないので、リスクも少なく、
人の死に直面しなくて済む、そして高報酬が得られるという理由のようです。

若手医師に期待をしている

こうした若手医師の傾向がある中でも、
高齢化に伴いニーズが増している在宅医療に積極的に取り組む医師もいます。
ガン患者や慢性疾患を患う患者が自宅での療養を希望する場合や、
持病を患っていたり寝たきりだったりの高齢者宅を定期的に訪問し、
緊急時には駆けつけて診療を行う医師です。

また、糖尿病専門医や循環器専門医等の専門医を目指して、
専門知識や治療技術の向上に努め、患者の期待に応える医師もたくさんいます。
医師自体が専門職なわけですが、
さらなるスキルアップやキャリアアップを目指すわけです。

こうした先輩たちの姿を見て、自分も続こうと頑張る若手に期待したいですし、
医療改革や医師自らの選択により、診療分野の偏在や地域による
医師不足が解消されるよう願わずにはいられません。